相棒の形が変わるとき

相棒の形が変わるとき

カーライフはひとつじゃない。
ソニカだけが相棒じゃない。

ソニカと過ごした日々と、新たな日々。

どちらも同じカーライフ。
どちらも同じ人生。

目次

相変わらず調子の良い相棒

今日は当てのない深夜のドライブ。

街の喧騒も落ち着きを取り戻し、
人通りの少ない市街地を過ぎ去った。

そろそろ峠道に差し掛かる。
その前にコンビニで一息入れよう。

「うん、今日も調子が良さそうだ。」

走行距離は18万kmを超えた。
相棒はまだまだ元気に動いてくれている。

思えばここまで大きな故障やトラブルはなかった。

もちろん些細な故障はいくつかあった。
ヘッドライトの球切れ。
ファンベルト交換。
バッテリー上がり。

そうだ、バッテリーは出先のガソリンスタンドで、
給油中に上がっちゃったんだよな。

あの時はお店に迷惑をかけたな。
ロードサービス付きの自動車保険に助けられたっけ。

「そろそろ次を考えないとな。」

深夜の静寂のなか、
缶コーヒーを片手にふとそんなことを思った。

来月には車検を控えている。
ソニカと過ごす時間だけがカーライフじゃない。

そう思ってはみたものの、
まだ決断できないままでいた。

結婚と引越

人生はカーライフだけじゃない。

先日、彼女にプロポーズをした。
良い返事を貰えた。

両親への挨拶も済み、
結婚式の日程も決まった。

仕事は相変わらず順調だ。
ありがたい限りだ。

──今日は新居について相談する予定だ。

「どんな家にしようか?」

より快適なカーライフが送れる家が良いな。
駐車場付きの戸建てならメンテナンスがしやすそうだ。

お互い個人事業主。
それぞれの仕事部屋が必要だよな。
それなりの広さが必要になりそうだ。

「私さ、今までマイカーって持ったことなかったんだ。」
「でも、あなたを見てたら欲しくなっちゃった。」

「おお、いいね。」

正直意外だった。
車に乗るのは好きなんだなって思ってたけど、
まさかマイカーが欲しくなるなんて。

「うん、実はすっごく気になってる車があるんだよね。」
「今度相談に乗ってほしいな。」

「もちろんオッケーだよ。」

まさかここまで考えていたとは。
欲しい車ってなんだろう。
まあいいか、それは次のお楽しみってことで。

戸建てで車が2台停められる家。
お互いの仕事部屋と、大きめのリビング。
車があるから駅からは離れててもいいかな。

お互いの希望を出し合って、大方の方針は決まった。

──さて、次は相棒と向き合ってみよう。

カーライフを話し合ってみた

少し前にカー用品店から車検のお知らせが届いていた。
車検に出して乗り続けるか、

あるいは──

正直なところ、
仕事や日常使いではちょっと手狭だと感じるシーンが増えてきた。

荷物が積みきれなかったり、
買い物を断念したり。

でも、手足に馴染む運転感覚は捨てがたい。
もう、相棒として十分すぎる一体感がそこにあった。

まずは未来の妻に相談してみよう。

「あのさ、ソニカのことなんだけど。」

「うん、どうしたの?」

「来月車検なんだけどさ、20万kmに差し掛かってきてて。」
「乗り換えも検討すべきなのかなと思って。」

「そっか、ちょっと待ってね。」

あれ、どこかいっちゃった。
あ、すぐ戻ってきた。

「えっとね、あなたの好きなようにして良いと思う。」
「自分の意見がないってことじゃなくて、これが私の意見なんだ。」

なるほど。
興味がないってことじゃなさそうだな。

「ちなみに、君はどんな車を検討してるの?」

「今はまだヒミツだよー。近々話すね。」

うん、気になる。
でも、楽しみに待ってみよう。

何はともあれ、
夫婦生活での機能を考えてほしいっていうことではなさそうだ。

──あなたの好きなようにして良い、か。

俺が選びたい道は何なんだろう。

もう一回整備士に相談してみた

「そんなこと俺が決められるわけないだろ。」
「自分のことは自分で考えろ。」
「俺は車の状態しか見られねえからな。」

──いつものカー用品店。

いつもの整備士、相変わらず手厳しいな。

「それはそうなんだよ。わかってるんです。」
「ちなみに、ソニカの車検を通すならどれくらいかかりますかね?」

「現実的な話をすれば、この車体は一般的には限界って言われるところだ。」
「ガタを全部直そうと思ったら、車体価格を超えるぞ。」

うっ、やっぱりそうだよな。
たくさん乗ったし、覚悟はしていた。
でも、現実は厳しいよな。

「でもな」
「ソニカって車が悪いわけじゃねえ」

ん?

「前のオーナーが大事にしてた。お前も大事にした。」
「中古車ってのは、そういうバトンみてえなもんだ。」

そっか。
中古車ってそういうものか。
それに、何を選んでもソニカが良い車であることに変わりはない。

「お前は受け取ったバトンを、ちゃんと走らせた。」
「なら、次にどう渡すかを考えりゃいい。」

なるほど。
次にどう渡すか、か。

「お客さんって、ソニカの話をしてるとき、すごく真剣ですよね。」
「でも、ただ悩んでるっていうより……なんか、やさしい感じがします。」

ん、ああ、
新人店員さんか。

「やさしい?」

「はい。どうしたらこの車にとっていいんだろう、って考えてる感じがするんです。」
「だから、こんなに大切に乗れてるんだろうなって。」

そっか、周りからはそういう風にみえていたんだ。

「甘いこと言ってんじゃねえぞ。」

整備士のおじさんが、いつもの調子で口を挟んだ。

「車は気持ちだけじゃ走らねえ。金も手間もいる。」
「でもな、気持ちがなきゃ、ここまで大事にはできねえのも事実だ。」

──よし、決めた。

「ソニカは2年の間、たくさんのことを教えてくれました。」
「そろそろ卒業して、次の車を考えようと思います。」

整備士のおじさんと新人店員さんと俺。
不思議な組み合わせで、次の車を検討することになった。

新たな相棒はプレマシー

整備士と話し合った。

これだけ乗るなら新車よりも、
ソニカを買った時のように、
2年後に次の道を選べる車が良いと聞いた。

荷物も積めるし、走りも良い。
プレマシーをすすめられた。

背が高すぎるミニバンは少し違う。
でも、荷物が積めて、走りも諦めなくていい。
その中間にいるような車だった。

10年落ち10万km
世間では寿命といわれるような車体なら安い。

それをソニカのようにメンテナンスしながら楽しむカーライフが
俺には合っているのだろう。

ソニカを手放すことは、まだ少し寂しい。
でも、その寂しさがあるから、ちゃんと大切にしてきたのだと思える。

前のオーナーから受け取ったバトンを、俺はたくさん走らせた。
そして今度は、ふたりの暮らしに合う相棒を迎える。

ソニカとの記録と記憶は、なくならない。
たぶん、それも含めて俺のカーライフなんだと思う。


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